乱視の矯正と乱視コンタクトレンズ
乱視の見え方
乱視の人はものが二重にダブって見えるとか言いますね。乱視の検査では縦横斜めの放射線を見せたりしますがあれが乱視の検査に使います。本来この放射線は縦も横も斜めも同じ太さで同じ濃さなのですが乱視の人にはこれが濃く見えたり薄く見えたり、太く見えたり細く見えたりするのです。
乱視の発生と屈折状態
乱視はほとんどの場合、角膜の形状の歪みから発生し角膜乱視と呼んでいます。ただ、少なくはありますが水晶体の歪みから発生する乱視もありこちらは水晶体乱視と呼びます。乱視は角膜の乱視と水晶体の乱視が合わさって全乱視になります。
全乱視=角膜乱視+水晶体乱視
角膜乱視はの球体の形状によって正乱視と不正乱視に分類されます。
正乱視
正乱視は角膜の縦と横のカーブの差から生じることがほとんどです。本来なら角膜という瞳は水平のカーブも垂直のカーブも同じ曲がり具合で真ん丸のバレーボールのような形状のはずです。しかしカーブの曲がり具合を調べると多くの人が垂直のカーブのほうが水平のカーブより、より強くカーブしています。ちょうどラブビーボールを横にしたような形状をしています。ラグビーボールはカーブの曲がり具合がきついカーブと曲がり具合のゆるいカーブの2つのカーブがありますね。角膜のカーブの曲がりのきついほうを強主経線、かーブの曲がりの緩いほうを弱主経線と呼びます。強主経線と弱主経線は直交しています。
上記の図面では
水平方向の平行入射光線は屈折力が弱いため焦点が後方にできます。(弱主経線)
垂直方向の平行入射光線は屈折力が強いため前方に焦点を結びます。(強主経線)
焦点が前後2つできたような状態です。このように角膜の屈折力の差によってできる乱視を正乱視と呼んでいます。この時の焦点は前と後ろに光の集合体ができるので前のほうは前焦線、後ろのほうは後焦線と呼びます。
角膜乱視の種類
正乱視のほとんどがラグビーボールを横にした形状で直乱視でと呼びます。
- 直乱視—ラグビーボールを横にした角膜の形状
- 倒乱視—ラグビーボールを縦にしたような角膜の形状
- 斜乱視–ラグビーボールを斜めにした角膜の形状
乱視の90%は直乱視で残りの10%が倒乱視か斜乱視です。
不正乱視
不正乱視は角膜が事故や病気で凸凹ができたり、歪んだりして起こります。円錐角膜などの眼病でも不正乱視になります。不正乱視は使い捨てコンタクトやソフトコンタクトは柔らかく角膜の形状にしなってしまうので矯正ができません。ハードコンタクトであれば硬いハードレンズと角膜の歪みの間に涙液が入りレンズ表面は滑らかで歪みのないハードレンズのカーブになりますので乱視はかなり矯正されます。ただ、不正乱視は少ないのでここのページではあまり触れず正乱視の話になります。
乱視の矯正
乱視の矯正には円柱レンズを用います。円柱レンズは英語でシリンダーcylinder lensといいます。なので乱視用コンタクトの乱視度数はCylで略されています。円柱レンズでの度数の記載はC-0.75 Ax180のように表記されます。この中でCは乱視度数、Axは乱視の軸度になります。
S-3.00C-1.25Ax180
のようになります。
円柱レンズと軸度
乱視の矯正の話をする前に円柱レンズのことをよく理解しておく必要があります。円柱レンズにも円柱凸レンズと円柱凹レンズがあります。これら円柱レンズを下図のように立てた状態で真上と真横から見てみましょう。真上から見ると円柱凸レンズは凸レンズなので光を収束して焦点を作ります。横から見ると平面レンズなのでそのまままっすぐ光を透過します。円柱凹レンズについても真上から見るとただの凹レンズなので光を拡散します。横から見ると平面レンズなのでそのまままっすぐ光を透過します。円柱レンズの作用は一方の光は収束したり拡散するけど、もう一方の光はそのまま直進させることです。この作用が乱視の矯正に使われます。
円柱度数(CYL)
乱視の度数は円柱度数のことです。円柱レンズにも円柱凸レンズと円柱凹レンズがあります。円柱凸レンズの符号は+(プラス)、円柱凹レンズの符号は-(マイナス)です。それぞれ度数は「0.25」刻みです。円柱レンズは英語でcylinder(シリンダー)といい、省略形で「CYL」もしくは「C」と記載します。
円柱軸度(AXIS)
乱視の軸度は円柱軸度のことです。円柱軸度(AXIS)は円柱レンズの軸の向きを表しています。上記の円柱凸レンズも円柱凹レンズ軸が立っていますから軸度(AXIS)は90°です。円柱レンズが真横に倒れていたら軸度(AXIS)は180°ということになります。円柱軸度は英語でCylinder axisといい省略形で「Axis」もしくは「Ax」と記載します。
正乱視の矯正は前焦線と後焦線を合わせて焦点にすること
一番多い近視性乱視の矯正で考えてみましょう。
参考例として下記の度数で矯正してみましょう。
S-2.00C-1.00Ax180
正乱視は角膜の縦と横のカーブの差から生じて前焦線と後焦線ができることでした。
- 円柱凹レンズで前焦線を後焦線にあわせるために「C-1.00Ax180°」の円柱レンズを目の前に置きます。
- 前焦線が後方へ拡散されて後焦線と合わさります。これで乱視が矯正されて「S-2.00」の近視のみになりました。
- 目の前に「S-2.00」の球面レンズを置くことで網膜に焦点が合わさり近視性乱視が完全に矯正されました。
乱視表による乱視の検査
乱視の自覚検査には下図の縦横斜の放射線の乱視表を使います。
乱視の測定の前に
はじめに乱視表が見えないくらい近視が強いと乱視検査もできないので
乱視の視力表が見える0.6になるくらいまで近視度数を加えます。
また近視度数を強く入れすぎると乱視の軸度が逆に出てしまうので軽い近視状態0.6くらいで乱視の自覚検査をはじめます。
乱視の軸度の測定
この状態で縦横斜の放射線の乱視表を見てもらいます。
この時、縦横斜の線を見てもらい一番 濃くはっきり見える線を答えてもらいます。
ちょうど時計の時刻と同じように数字が記載していますから時計の何時方向が濃くはっきり見えるか答えてもらいます。
この時、縦の線、時計で考えると12-6が一番濃くはっきり見えたとすると軸度は180°になります。
もう少し、精密に乱視軸度を測定するために今度は縦の12時の左右1時と11時のどちらが濃くはっきり見えるか聞いてみましょう。
この時、左右の1時も11時も全く同じであれば軸度は180°で決定です。
この時1時方向のほうが濃くはっきり見えるようなら軸度は10°になります。(11時方向のほうが濃くはっきり見えるようなら軸度は170°)
要は左右どちらかが濃くはっきりしているなら、そちらの方向へ10°軸が傾いていることになります。
12-6方向であれば12時も6時も方向は同じですから、簡略のため12時方向の左右の1時か11時方向のどちらが濃くはっきり見えるか聞けばいいですね。
【参考】
一番はっきりっしている線が1時-7時で、次にはっきりしてしている線が2-6時の場合—乱視の軸度は40°になります。
一番はっきりっしている線が3時-9時で、次にはっきりしてしている線が4-10時の場合—乱視の軸度は100°になります。
乱視の度数の測定
乱視の軸度が決まったら検眼枠に乱視レンズの軸度を合わせます。
はじめに乱視度数を-0.50を入れてみましょう。この状態で乱視用を見てもらいます。
これでまだ12時方向が濃くはっきりしているといわれたら乱視度数を追加してCYL-0.75を入れてみましょう。これで乱視表を見てほぼ同じに見えたら乱視度数CYLは-0.75で決定です。そこであえてもう一段だけ乱視度数CYL-1.00を入れてみまよう。そうすると乱視表を見ると横線の3時-9時が濃くはっきり見えるようになってしまいました。これは乱視度数を強くしすぎたのです。それで先ほどのCYL-0.75がぴったりの乱視度数だとわかります。
もし、CYL-0.75を入れる縦線がまだ濃く、CYL-1.00入れると横線が濃くなる場合はCYL-0.75で決定します。おそらく正確な乱視度数は-0.75と-1.00の中間にあるのでしょうが、検眼レンズの単位が0.25刻みなのでこれ以上は精密に検査できません。このような場合は弱いほうの度数で決定します。過矯正は度が進んだり目が疲れる原因になりますので中間に度数が来たら弱いほうで決定します。
近視度数の測定
これは乱視とは違いますが自覚検査の流れとして近視度数や遠視度数を測定するレッドグリーン検査があります。
ここでは近視度数の測定について説明します。
上記で乱視の軸度と乱視度数が決まりました。この屈折状態は前焦線と後焦線がひとつになって、ひとつの焦点になっています。
この焦点を網膜の位置に合わせるのがレッドグリーン検査です。
乱視を矯正した状態で緑と赤の中の十字を見せると、赤の中の十字がはっきり見えると答えると思います。そうしたら検眼枠にSPH-0.50を加えます。これでまた緑と赤の中の十字を見せてごちらがはっきり見えるか聞いてみましょう。ほぼ同じでも赤と答えたらまらSPH-0.25を加えます。もし、徐々にSPH-0.25を加えて全く赤と緑の中の十字が同じになるまで続けます。もし緑の中の十字がはっきり見えるとなったら、行き過ぎですので前の度数に戻します。過矯正は度が進んだり目が疲れる原因になりますので中間に度数が来たら弱いほうで決定します。
これで自覚検査は終了です。
コンタクトレンズの乱視の軸度について
乱視の軸度AXは通常Ax180とかAx170とかAx10、もしくはAx90などですね。右目と左目の乱視の軸度は
左右対称になることが多いです。例として右目のAxが180°なら左目もAx180°、右目がAx170°なら左はAx10°。
もちろん右目のAxが180°で左目の左はAx10°のこともあります。これならほぼ対称に近いですね。
左右の乱視用コンタクトレンズの乱視軸度が直交している場合の考えられるケースとして
でも時々、乱視用コンタクトの注文で右目Ax180°で左目Ax90°で注文をいただくことがあります。長年の経験で正確な自覚検査で右目と左目の乱視軸度が90°直交する人を見たことがありません。このような注文をいただいた場合は注文内容が間違っていないか確認のメールやお電話をさせていただいています。
- 自覚検査時の乱視表での検査を見せる前に近視度数を上げすぎた場合、乱視軸度が90°直交してでることが考えられます。
- 乱視度数をマイナス表記でなくプラス表記で記載した場合は直交した記載で出ます。オートレフケラトメーターなどでは度数によっては乱視軸度をプラスで表記して出すこともあるので、これを間違えて乱視用コンタクトのデーターとして記載されてしまっている場合。
ほとんどの乱視は近視性乱視
乱視の人は乱視と近視が混在する近視性乱視がほとんどです。
コンタクトレンズのパッケージや眼科で発行してもらった処方箋に記載されている数値の
S-3.00C-1.25Ax180
このなかでSは近視度数、Cは乱視度数、Axは乱視の軸度になります。
乱視から考えるコンタクトレンズの選び方
乱視がある人に向いているコンタクトレンズを考えてみます。一般的に乱視がある場合は乱視用使い捨てコンタクトかハードコンタクトにします。
- 乱視用使い捨ては種類が多くワンデーや2ウィークなど使用期間や乱視度数や軸度も選択の余地が豊富です。
- ハードコンタクトは乱視の矯正力が強くしっかり乱視を矯正して視力を出したい人に向いています。
コンタクトレンズでの乱視矯正
⇒ ハードコンタクト
乱視があるからといって必ず乱視用コンタクトにするとは限らない
近視だけと思っている人も丁寧に検査すると少ないながら乱視が入っていることも多くあります。ただ、ほとんどの場合、乱視が少なかったのであえて乱視用コンタクトにしないで近視用のコンタクトにしています。
例えば乱視度数はC-0.50ですが弱いのであえて乱視の度数は入れないで、近視度数S-3.00のみにするとがほとんどです。乱視度数がC-0.75以上なければ乱視を入れないことがほとんどです。
残余乱視から考えるコンタクトレンズ選び
残余乱視とはコンタクトレンズを着用した後に残って出てくる乱視のことです。
使い捨てコンタクトで残余乱視が出る理由
使い捨てコンタクト(ソフトコンタクト含)は柔らかくて角膜の形状にレンズが撓る(しなる)ので角膜乱視そのものが出てしまいます。
このような場合には乱視用使い捨てコンタクトを検討してみましょう。
乱視用使い捨てコンタクトにしたがコンタクトの乱視度数が足りなかったり、軸度のズレが出あると残余乱視がでます。そんな場合は再度、検査をして乱視度数と軸度を調べましょう。
ハードコンタクトで残余乱視が出る理由
ハードコンタクトなのに乱視の矯正ができなかったり、
屈折検査では乱視がなかったのにハードコンタクトを入れると乱視が出てくることがあります。
ハードコンタクトは硬いので角膜乱視は完全に矯正されて0になすますが、水晶体乱視が残ってでることがあります。
乱視がないと思ったがハードコンタクトにすると乱視が出てくることがあります。
眼科やコンタクト専門店での屈折検査で測定される乱視の度数や軸度は全乱視といって角膜乱視と水晶体乱視の合わさったものです。
全乱視(屈折検査の乱視)=角膜乱視+水晶体乱視
残余乱視が出るケースとして角膜乱視がC-1.00Ax180で水晶体乱視がC+1.00Ax180で乱視を打ち消しあっていた人は角膜乱視を0にするとC+1.00Ax180が残ります。これは軸転換するとC-1.00Ax90になります。
つまり普段乱視がないと思っていた人がハードコンタクトを装用することで出現する乱視です。水晶体乱視が残余乱視として出る場合はハードコンタクトは適していませんので乱視用使い捨てコンタクトにします。
追記:上記とは別にすごく強い角膜乱視の場合や柔らかめなハードレンズにすると角膜の形状にレンズが撓る(しなる)ので角膜乱視が残る場合があります